AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
2日目
writen by いっと
「美咲ちゃん、実は俺、君の事を…」
「隆一くん、私も…」
う、うひょー!
今日は朝から調子がいいぜ。夢での成功は必ず現実につながるはずだ。
夢ってヤツは大体いつも、いいところで終わってしまう。ここからってところでCMに入っちゃうテレビ番組のよう。大丈夫、これはきっと正夢に違いない。
朝のまどろみの中、寝ぼけた頭はプラス思考を奨励。とりあえず布団を押しのけ、大学に行きましょうか。
(お、いたぜいたぜ)
橘美咲ちゃん。昨日知り合ったんだけど、彼女には縁ってもんを感じちゃったんだ。
正直言って青春は儚い。にんべんに夢で儚い。今まで、ずっとなんとかなると思って暮らしてたけど、そろそろマズイ。彼女を射止めねば。
ゴト!
(や、やっちまった!)
俺の体を隠してくれていた観葉植物の植木鉢を派手に倒してしまう。美咲ちゃんに見入ってしまっていたのか、かなり傾けていたらしい。ど、どうしよう。
「?…誰?」
やべ、気づかれた。
「や、やあ、き、奇遇だね」
おい俺、てんぱってんの丸出しじゃねえか!
「え、えっと、広瀬…くん?」
彼女のロングヘアーは茶色に染まっていてつややかだ。目を少し大きく開いて、こちらを見ている。
「あの…」
彼女は怪訝そうな顔をしいる。いかん、見とれてる場合じゃあない。話さないと。
「そ、そうだひょ」
…ん?なんだか言葉のお尻のあたり、発音が不明瞭に。
「ひょ?」
ひょ?え、今俺、ひょっつったか?ヤバイ、ヤバイって!
「あ、ああ、気にしないで」
セーフ、セーフだ。文脈から、彼女は俺の発言を「そうだよ」と訂正してくれてるはず。なんか大切なものを失った気もするが、なんとかなるはずだぜ。
「う、うん」
納得いってない顔だな。しかし気の利いたセリフも思いつかねえし…。
「じゃ、じゃあ、授業あるから」
言うなり彼女は行ってしまう。本当に参ったよ。これじゃあ絶対印象悪いよ。
…あ、観葉植物片付けなきゃ。
―――
あの人一体何なんだろう。なんか物陰に隠れてたようだし…。私橘美咲はそう考えながら現在授業を受けています。
大学ってまだ分からないことが多い。小学生ならすぐ友達ができるけど、ここではそううまくいくのかなあ。
人間関係って難しい。相手のことを考えれば考えるほど、自然な行動が取れなくなって余計な誤解を招いてしまう。考えずに誰にでも話しかけられたらいいんだけど、私にはできそうにないし…。
ああ、人の心が読めればなあ。そうすれば、あの人、広瀬くんがさっき何をしようとしてたのかも分かるのにな。なんかものすごい変な人だったらどうしよう…。
―――
(ああ、早くも大学って勉強する場所じゃないってことに気づいてしまったな。次はどうやって話しかけようか…)
「…っていう感じの顔してるよな」
ん?おい、誰だ!今俺の心を読んだのは!
「お前、授業中も全然ペン動かしてなかったろ」
どうやら同級生が俺に話しかけている。面識もないのに失礼なやつもいるもんだ。
「しっし!あっちいけ、俺はそれどころじゃねえ」
「ああそうかい、せいぜいがんばれよ」
ったく、近頃の若者は礼儀ってものを知らない。小学生じゃあるまいし、気安く話しかけてくるんじゃねえ。
食堂。お昼時は大勢の人でにぎわう。俺は無意識に周囲に目を配っていた。なぜかは今更もう言うまい。
あ、あの子か!?…違う。茶色の長髪の子なんて、いっぱいいる。正直なところ、後姿だけじゃあ女の子ってあんまり見分けつかないんだよなあ。さっきてんぱってさえいなければ、どんな服着てたかぐらい思い出せるはずだったろうに。
「ありがとうございましたー」
結局あのあと美咲ちゃんを見つけることができなかった俺は、この日の大学での授業を終え、コンビニでバイトしながら頭の中で戦略会議。
とりあえず土曜日だ。土曜日はあいている。この日をうまく使うことで、今後の俺の未来は決まる。多分。
…客の来店を知らせるチャイムが鳴る。もはや条件反射で口が開く。
「いらっしゃい…!」
ま、まさか、美咲ちゃん!思わず、お客様という神様に対してフランクな言葉で応対してしまった。い、いや、彼女はお客様ではない、美咲ちゃんだ。
「…!」
彼女もさすがに気づいたらしい。若干うろたえ、後ずさりそうになったが、さすがにそれは不自然だと思ったのか、俺に声をかけてくれた。
「こ、こんばんは」
彼女は俺がいるレジから離れ、売り場をうろついている。どうしよう。どうしてしまったらいいんだろう。いつも気だるそうに突っ立っている俺も、さすがにこのときは気が気でなかった。ああ、とりあえずあとで話して…。
「すいません」
カウンターを挟んで向こう側に立っている人。あ、お客様だ。
「あ、す、すみません」
30代ぐらいのスーツのおじさんだ。と、その後ろに…美咲ちゃんが並んでいる!
今までにないぐらい手早く商品をさばく。あとは代金さえいただければ…。そのときおじさんが口を開いた。
「あの〜、アイルド7、もらえる?」
あ、アイルド7…。タバコ、タバコだ。タスポが導入されてからというものの、こうやってコンビニでタバコをお買い求めるお客様が多い。
後ろの棚からアイルド7を探す。俺はもちろんタバコを吸わないので、どれがどれだかよく分かっていない。ほんの少し手間取った。そう、ほんの少しだが、そのときの俺にとっては永遠に近い時間を感じていたのだ。
「お客さん、こちらのレジへどうぞ」
無我夢中でタバコを探している間に、バイト仲間が隣のレジで叫んだ。…っておい!
美咲ちゃんがそっちのレジに行ってしまうじゃないか!
「ありがとうございましたー」
タバコを見つけ出した俺は、お客を送り出す常套句を口にした。美咲ちゃんも店を出て行く。くそ、レジではすれ違ってしまったが、今だ。今しかない。俺は店を飛び出した。
「ちょ、ちょっと待って!」
彼女はびっくりした様子で振り返った。
「今週の、」
俺だって男だ。ここぞってときは、
「土曜日、」
やれるはずなんだ。
「あいてますきゃ?」
「え、え?」
「あいてますか?」
男らしく言い直した。
「は、はい、多分…」
よ、よっしゃあ!
「よ、よっしゃあ!」
俺は夜道を駆け出した。
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