AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
第3話
writen by いっと
「早く金出せよ」
鼓膜が揺れる。
「わ、分かった。…だから、もういいだろ」
声帯が震える。
「いいねえ…じゃあお返しにっ」「うっ!」
腹に激痛が走る。

「楽しかったぜ、じゃああばよ」
路地裏に這いつくばる俺の右ポケットから財布を奪い、男は立ち去った。大して金なんか入ってない。でもごくわずかでも金が必要な世の中だから、こうやって略奪は繰り返される。

「…いっ…!」
さっきやられた腹が痛む。きっとこのまま野垂れ死にだ。そう思っていたが、体は本能で歩き出す。心と体が乖離したような感覚。こうなりゃしめたもんだ。
 足を引きずって街を歩く。道行く人はみな破れた衣服を身につけている。砂埃が舞うが、誰もその希望の光を失った目を覆うことはしない。他に目に付くのは、半壊した建物ぐらいだった。
「いらっしゃい」
気がつけば俺は酒場にたどり着いていた。
「またやられたのかい」
マスターはいつも気丈に客を気遣ってくれる。ここに来る人間は、常にこのマスターと酒を心の拠り所にしているのだ。
「このご時世だから仕方ねえよ」
力なく俺は答えた。
「ツケは今回が最後だからな」
そう言いながらマスターは、カウンターに座る俺に熱燗を差し出した。この言葉を聞くのは何度目だろう。

「儲け話を1つ聞かせてやるよ。さっき客から聞いた話なんだが…」
どうせろくでもない話だろう。
マスターは続けた。
「どうやら学校跡が開放されたらしい。何かお宝が見つかるかもしれないな」
「学校…」
忘れていた言葉だった。
俺は居ても立ってもいられなくなり、酒場を飛び出す。
「お、おい、どうしたってんだよ!」

―――俺の心に暗い影を落としていたのはあの戦争だ―――

学校跡は魔法の授業に使っていた教材が危険だと、あっちの軍が占拠していた。
全力で学校跡に走る。
いつも大急ぎで登校しては遅刻していた日々を思い出し、涙が出る。

―――これで連続5回の遅刻ね―――

学校は原型をとどめてはいなかったが、俺にとって意味があるのはそんなことじゃない。
瓦礫の上を歩き、映画のように頭の中に映るあの日々を目の前の光景に重ねては、次の雫を目から落とす。そして、左手が勝手に動いて、ポケットをまさぐる。

―――魔法式の書き取り100式。明日までにねえ?―――

出せなかったんだ。
手のひらにはしわだらけになった、「上杉純夜」の文字が残る紙があった。

明日はなかった。

あの日、戦争は始まった。
あの日、俺は命を除く全てを失った。
あれから一体どれくらいの年月が過ぎたのだろう。略奪を繰り返しては暴行を受ける日々。
生きるので精一杯だった。
薄汚れた心をここに持ってきて、一体俺は何をしているんだ。

「これで連続6回の遅刻ね」
突然耳に飛び込んだ声。
跡地に人などいなかったはずだが…。
「やっと見つけたわ。まったく何処ほっつき歩いてたんだか」
その声は…まさか。
俺は涙を散らして振り向く。
「私のこと、忘れたとは言わせないわよ」



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