AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
第7話
writen by みなっきー
悪魔はユリッチを見据えたまま動かない。だがその間にもユリッチは悪魔との距離を詰めていく。
一歩。また一歩。
(…ダメだ……ユリッチ、逃げないと…………)
言葉が口にでない。
「ねぇ、純夜!あれヤバくない!?」
「…………」
「純夜!」
「…………大丈夫」
あれ?何言ってんだ、俺。
大丈夫なわけがない。絶対に逃げた方がいい。
だが何故だ?ヤバいはずなのに心のどこかで、ユリッチが何かしてくれると確信している。
なんの根拠もないのに……。
「先生!逃げて!」
いつの間にか紗季は、窓から身を乗り出し、大声で叫んでいた。
瞬間、紗季の声を合図に、悪魔は、その鋭い詰めを振りかぶり、ユリッチめがけ、地を蹴った。
悪魔の一蹴は地面をえぐり出し、生々しい爪跡を残す。その跡が悪魔の凶暴さ、恐ろしさを物語る。
だが、ユリッチは微動だにせず、詰め寄る悪魔を見据えた。
そして、あと一蹴でその爪が届くという時、叫んだ。
「上杉!これがあたし達の闘いだっ!!」
校庭が光に包まれた。何が起こったんだ?
光が収まった時には、悪魔の姿はなく、代わりに男子生徒が横たわっていた。
そしてユリッチの手には青白く光る棒が握られていた。いや、俺の見間違いでなければ、あれは日本刀だった。
深呼吸で息を整えたユリッチはゆっくりこちらに顔を向け笑ってみせた。


「…紗季。先帰ってくれ」
「………え?ちょ、純夜ぁ!」
腰を抜かした紗季を廊下に残し駆け出した。
目的地、職員室の前には藤田が立っていた。
「どうかね?」
藤田は俺を一瞥しただけで、視線を合わせなかった。
「……あれが魔物なんですか?」
「うむ。魔物は様々な形をしているが、どの個体も体のどこかにバツ印がある。覚えておくといい」
「俺が聞きたいのは、そんなことじゃない!」
感情的になった俺は、相手が先生だという事も忘れてしまっていた。
「魔物はあっちの世界から来るって言ってたじゃないか!」
「その通りだ」
「魔物のいたところに人がいた!魔物って本当は人間なんじゃないのか!?」
藤田は表情すら変えなかったが、ようやく俺に目線を合わせた。
「ほう。思ったよりいい頭を持っている。確かに君の言ったことも間違いではない」
「じゃあ、魔物は…」
「上杉君。誤解しないで」
圭ちゃん先生が、職員室から顔を覗かせた。
「ユリッチが来たら、ちゃんと説明するから。ね?」


「待たせたか?」
「後処理は大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません」
藤田についてくるように言われ、俺はしぶしぶ後を追う。
その後に圭ちゃん、ユリッチと続く。
教師3人に生徒1人。傍から見ればどう見えるのだろうか。
途中、校庭側にさしかかったので、さっきの男子生徒や、あのクレーターが気になり覗いてみた。
「!!!!」
…どうなってるんだ?男子生徒はともかく、あのえぐれた校庭が、元通りになっている…。
あんなの一朝一夕で修復できるもんじゃないはずだ。
「どうしてって顔してるな」
ユリッチが得意げな顔で覗き込んできた。
「言ってたろ?後処理だよ。後処理」
じゃあこれはユリッチが…。

藤田が止まったのは、使われてない空き教室の前。
「ここなら話しやすいだろう」
鍵を取り出し静かに開けた。
使われていないといっても、机や椅子はそのまま残っている。
「さて、まずは魔物とはどういうものか、だな」
藤田が口を開いた。
「魔物は、言ったようにデブリスからやってくる。魔法が暴走した世界からやってくると考えたら、魔物の正体は、有機生物に魔法が何らかの影響を与えた結果だと私は踏んでいる。そしてデブリスと我々の世界は、コインの裏表と同じ、近いが決して交わることのない関係にある。ここまではいいな?」
俺は無言で頷く。
「では何故、魔物はこちらの世界に来ることができるのか。魔物はこちらに住む生物を媒体として、移動してきていると考えられる」
「生物を媒体?」
意味は分からないでもないが、聞きなれない単語に少し混乱している。
「そうだ。どのような原理かは定かではないがな」
「ならどうして、そう考えたんですか?」
藤田は少し顔を曇らせたが、はっきりといった。
「私も魔物になったことがあるからだ」
「なっ……!」
衝撃だった。だが、次に見たそれは、その事実を裏付け、更に言葉を失わせた。
「!!!!」
藤田がおもむろに、いつも右目につけているモノグラスを外すと、そこにあったのは、人間のそれではなく、爬虫類を思わせる紅い眼だった。
「正確に言えば、魔物になりかけた、が正しい。体の中に自分の魔力とは別の魔力が流れ込んでくる感覚。それを感じたのが、三十年前、私が君と同じ歳の頃だ」
「そんな…」
「私は何とか抵抗し、魔物から逃れたが、体の一部は魔物に奪われた。幸い中枢神経は無事だったので、体が支配されることはなかった」
「………」
「そして、覚えておきたまえ。君の魔力は尋常でない。いつ魔物に狙われてもおかしくないということを」


その後の事はあまりよく覚えていない。
もう暗いからと、圭ちゃんが俺の家の前まで送ってくれた。
「先生。ちょっといいですか?」
「なぁに?」
「魔物に取り込まれた人はどうなるんですか?」
「…早い段階で魔物を追い出せれば、後遺症すら残らないわァ〜」圭ちゃんはそう言った。
つまり、もし対処が遅れたら……。
「じゃあ、おやすみなさい。また明日ねェ」
「はい。さようなら」
俺が家に入る直前、聞こえた。
「そのために闘うのよ」
俺は返事も振り返ることもせず、ゆっくりと扉を開けた。


「ただいまぁ」
入りなれた玄関だ。玄関のマットの上では何が気にいらないのか、ふてぶてしい顔のブンちゃんが丸まっており、俺を一瞥した。
「ただいま。ブンちゃん」
あくびした。
「あら、今日は遅かったのね」
奥から母さんがぱたぱたとやってきた。
「ちょっと祐希ん家寄ってきた。ご飯も食べてきたからいいや」
あの事を話すわけにもいかないし、今はすぐに1人になりたかった。
「そうなの?せっかく母さん頑張って作ったのに、残念」
「明日食べるよ。今日は寝るわ」
「りょーかーい」
二階へ上がり、自分の部屋に入るやいなや、ベッドに倒れこんだ。
いつもと変わらない部屋。いつもと変わらないマイペースな母親。
だが今日一日で俺の日常は崩れ去ってしまった。
「魔物……か」
静かに目を閉じた。もう何も考えずに寝よう。

突然、胸苦しさに襲われた。
「………ブンちゃん重い」
部屋にナァーーーという鳴き声が響き渡った。



戻る
第6話へ
第8話へ




Copyright © 2008 hot-milk-tea All Rights Reserved.